【ワーキングママ白書】第5回 消費増税延期と衆議院解散で、どうなる?<後編>
ワーキングママ大学提供記事。。現制度のツケが子供、孫世代に?(後篇)
前編では危機的な社会保障について説明しましたが、今回私なりに処方箋をまとめてみました。それでは、これに対する処方箋はあるのでしょうか?さまざまな方策を組み合わせる必要がありますが、既得権者からの反対が大きな壁です。
1)給付の削減
即効性がありかつ効果が最も高いのが給付の削減です。社会保障の多くが高齢者向けで、高齢者向けの社会保障給付費(年金・医療費など)は、65歳以上人口当たり253万円(2010年)、
高齢者向け給付を30%削減すれば2060年に必要な消費増税幅は約60%から12%に低下するという試算もあります。ただし、高齢者が有権者の多数を占める”シルバー民主主義”で既得権益を削減することは、安部首相の”ドリル”をもってしても難攻不落のようです。
2)医療・介護・福祉・年金の合理化
医療・介護・福祉(生活保護、保育等)の分野は、様々な既得権益が絡み合い、市場原理が働いておらず、高コストで非効率なシステムが温存されており、経済資源の無駄を招いています。詳細は専門家に譲りますが、
GDPの20%超を占める社会福祉部門が非効率であることが、経済成長の足かせにもなっています。
【ワーキングママ白書】第2回 待機児童はゼロにならなくていい!?多様な保育・幼児教育への処方箋 でも述べたように、保育業界も同じく制度疲労を起こしており、多額の財政投入をして高コスト体質のまま低利用料で枠を拡大して待機児童を解消するのは限界にきています。
また、
【ワーキングママ白書】第3回 配偶者控除と3号年金を考える:就労と出産を奨励する税制への改革を<前編> で述べたように、年金・医療/介護保険は専業主婦が保険料をほとんど支払わずに受益する制度となっており、主婦が国民年金保険料を払ったとすれば総額は年17兆円に上ります(関西学院大学の試算)。
3)相続税の引き上げ、資産税の導入
これも国民(特に富裕層)の猛反発を招くこと間違いなしですが、個人の貯蓄・資産は高齢者に集中している一方、社会保障の恩恵を受けているのは高齢者であり、合理性があるという意見もあります。
4)経済成長による税収・社会保障収入増加
既得権に切り込みたくないからか、財政(含む社会保障)改革は景気回復で!が政府の主張です。第一の矢(金融)、第二の矢(財政)で手を打った次は第3の矢である成長戦略(規制緩和)が肝です。医療・農業・労働市場などの「岩盤規制」の突破や、女性就労拡大への抜本改革(配偶者控除と3号年金廃止)、外国人労働者受け入れなど、今後の実現に期待したいです。
5)少子化対策、または外国人労働者受け入れ
社会保障問題と低成長は高齢化・少子化に起因しており、食い止めるには少子化対策!との主張もよく聞かれます。ただ、今から爆発的に子供が増え、その世代が成長して就労世代が倍になるほどのインパクトが必要ですが、数十年かかる上、非現実的でしょう(図表参照)。移民や外国人労働者の受け入れは社会的抵抗や課題が多いものの、私は段階を追って進めるべきと思います。
図表<2060年までの人口構造の変化>
内閣府「社会保障の現状について」
<エピローグ>
金融業界にいて不思議に思うのは、日本はこんなに危機的な状況なのに国債の金利は高騰せず、ギリシャのように信用力が下がらないのか?という点です。それは、日本は世界一の対外純資産(296兆円)を保有する、金持ち国だからです。
日本は政府部門が多大な債務を抱えている一方、民間(企業、家計)はお金持ちで、全体でみればまだ健全なのです。これは、過去に貿易黒字(輸出)で稼いできた蓄積です。(最近では原発停止によるエネルギー輸入や生産の海外移転で貿易赤字国ですが)。そういう意味では、戦後~高度経済成長期に一生懸命働いて貯金してくれた高齢者が、手厚い社会保障を受ける合理性はあるのかもしれません。
なので、
日本には、政府部門の債務を民間の資産で相殺してしまえ!という最後の裏ワザがあります。政府は消費税・法人税・相続税・資産税、様々な形で吸い上げていくのでしょう。これに気付いている賢い富裕層は、資産の海外移転(キャピタルフライト)を進めていますが、日本政府もバカじゃありません。海外保有資産の相続税課税では某消費者金融創業家が政府と法定で争ったり、海外に資産を移転する際に含み益課税をする案も出ており、富裕層と政府の頭脳戦が続きそうです。
text by 調査部:千代田敦子
外資系金融機関に13年間勤務の後、現在は投資運用会社勤務。2児の母。
提供:
ワーキングママ大学