世界初のフェロモン香水にも使われていた香り

丸山レイナのVoyage of Fragrance 　Vol.3 — Muskー 冬に包まれたくなる媚薬の香り、ムスク



寒い冬が近づいてくるとコートやジャケット、毛皮からふんわり香る、ぬくぬくとした香りがだんだんと心地よくなってくる。そんな季節に欠かせない香料がムスク。そもそもムスクはほとんどのフレグランスに何かしろの量が配合されているのですが、オリエンタル系の香りは特に強調され、秋冬に人気の香り。

ソフトで甘く、若干粉っぽいベビーパウダーのような柔らかい女性的な香り。香水の構造ではボトムノートに使用され、残り香として登場してくる部分です。香水とアロマテラピーだと似た香料を使用することもありますが、ムスクはアロマテラピーで使用することはないので、これが香水の特徴を出すといっても過言ではないかもしれません。

ムスクとは本来中国で薬用作用があるといわれ、身近なところでは救心などにも使用されていますが、この薬理作用のある香料がヨーロッパに渡ってきたのは、アレキサンダー大王が最盛期だった時代で、シルクロードを通じて、中国から高級な絹や香辛料、薬と共に伝来したのが始まりだったと言われています。

元々麝香鹿の分泌物から採取されるものですが、現在では全て合成のものに置き換えられ、香水だけではなくシャンプーや洗剤など多様に使用されています。シャンプーを使用したあとにほんわか香る、あの柔らかい甘さ、これがムスク。特に日本では好まれているかもしれません。

媚薬の香りとして長年人類を惹き付けてきたムスク。1970年代にはアメリカでJOVAN MUSKが、初のフェロモン香水として発売され、一気に広まりました。 「この香りをつけると異性にもてる」と、当時はとても斬新で、明確なコンセプトだったことから大きな話題を呼びました。一気に広まったことを考えると、人間の本能って本当に単純なんだなという印象を受けます。

この冬、温かいコートからふわっと香るムスクで異性をほのかに魅了するのも楽しいかもしれません。

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• TEXT BY 丸山レイナ
  ハワイ、ワシントンDC、鎌倉で育つ。慶応義塾大学卒業。ランコムフレグランスプロダクトマネージャーを経て、ヴェルサイユにある調香師養成大学院ISIPCA卒業。パリの香料会社で大手企業をはじめとする世界中の香料開発やマーケティングに携わる。
  香料業界をもっと親しみあるものにし、人々に香りの豊かさと楽しさを知って欲しいと、2011年よりフリーランスで活動中。香りの都パリとオーデコロン発祥の地、ケルンを往復する日々。
  2006年よりフランス調香師協会（Societe Francaise des Parfumeurs）のメンバー、志野流香道第21代目蜂谷氏に香道を直接師事。
  現在、ヨーロッパや日本企業の香りコンサルティングや香料開発を行っている。また独自ブランドでキャンドルを発売中(パリ、ケルン、ベルリン、ロサンゼルス)。
  http://www.anierparfums.com
  
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