二村ヒトシ×アルテイシア Special対談 第2回
非モテと、親の呪縛と、オタク男女
二村:それもやっぱりマザコンだからじゃないですか? こっちが言う前に、なんでもやってくれる。家庭が子どもを甘やかし過ぎなのかもしれない。スパルタ教育は、ぼくは絶対反対なんですけど。
なんかAV監督がまともな先生みたいなこと言って申し訳ないですけど、愛されるのと甘やかされるのは別ですよね。全面的に愛された子どもには自己受容感が生まれると思うんです。ところが親の側がそれを愛情だと思っていて、子どもにしてみたら押しつけにすぎないケースが多すぎる。そういう場合、子どもの心には自己否定感が生まれる。親から「こうあるべき」を強要される、親というモンスターから密かに虐待されるという構図です。
秋葉原の事件の加藤被告なんて、まさにそうでしょう。教育熱心な母親が「優秀であること」を息子に強要して、それが世の中で「男として生きていく道」だと信じ込まされて、それができない自分を受け入れられなかった。
アル:そのパターンは多いですよね。
二村:女の子が「女らしくしなさい!」と言われて育って、こじらせたり、男親から性的虐待を受けるのも同じだよね。
娘にひどいことする父親は狂ってるけど、あれもつまり性欲というより、自分が理想とする「女」像を幼い娘に押しつけてるわけでしょ。
で、女親が息子を溺愛で虐待するのは「立派な男になってもらいたい」みたいなパターン。
母親が自分の夫に絶望していて「あんな風になるな」みたいな教育をすると、そういうエキセントリックなことになりがちだと思うんです。
なんでそんなことになるのかというと、親の側が思いこんでる“愛の形”が間違っているからだとしか言いようがないんですけど。
アル:どんな親でも何らかの形で子どもを抑圧すると思いますが、その形によっては悲惨な結果を生みますよね。
私の読者はわりと高学歴な男性が多いんですが、最近も24歳の大学院生からメールをもらいまして。
その彼も母親から「勉強していい大学に入ればいい会社に入れるし、普通に結婚できて人生は安泰」という教育を受けたそうです。でも自分はコミュ力がなくて就活もうまくいかず、彼女どころか女友達もできなくて「自分はダメ人間だ」と深く悩んでいる。
二村:普通に世の中を見てれば「今はそんな(母親が考えているような)時代じゃない」と気づくはずなんだけどね。
アル:『進撃の巨人』に「地獄になったんじゃない、元からこの世界は地獄だったんだ」ってアルミンのセリフがあるんですが、
その彼も母親の作った壁の中に囲われて、世界が見えなかったんでしょうね。
二村:ぼくは50歳なんですが、上の世代は、わりとコミュニケーション能力を問われないところで交際や結婚をしてきてるんだよね。それこそ「男が強ければ、女は言うことを聞く」とか。女性の側も、単純に耐えていただけじゃなく、女と男の社会的な役割が、まったく違っていたから。
昔の男は女性を「自分たちと同じ人間だ」とは解釈していなかったし、女性の側も「自分たちも同じ人間なんだ」って思ってなかった。それでなんとか成立していたのは、社会全体がそういうふうに設計されていたから。でも、それがもう崩壊してきている。
……あ、これ、最初に話した「近年、男が女子化している」ってのと、つながってますよね。
男が女らしくなってるのは、女性化じゃなくて、普通に“人間のフラットな姿に戻ってきてる”ってことなのかもしれない。
ぼくは、そもそも男と女って性器以外は何もちがわないんじゃないかと思うんだけど。でも男と女は生き物としてちがうってことにしといたほうが世に中にとって都合がいいから、そういうふうに社会化されてるだけで。
アル:3歳の男女を調査しても、女児が周りに気づかいするのに対して、男児はオモチャや遊びにまっしぐらだそうです。
まあ人間として生きやすいですよね、人の感情の敏感、すなわち共感力が高いほうが。
二村:それも、3歳にしてすでに社会化されてるってことじゃないの。って、こういうふうに言うと水掛け論になりますけど。
脳科学者のかたの説の受け売りだけど、人間に
「心」とか「自我」というものがなぜ発生したかというと、集団で狩りをしたり、村を作ったり原始農業をしたりするときに「他の奴が何を考えてるか類推できて感情移入できるほうが、個人としても集団としても生存に有利だから」だそうです。まったく他人と接しないで1人で生きていくなら、心とか感情って、べつに必要ない。
そう考えると、いままでの社会での男って「そもそも“心”がない」とまで言っちゃうと言いすぎだけど、感情という機能の使い方が下手すぎるのかもね。それでも生きてこられちゃったのが男性社会だ、ってことですかね。
アル:心がない同士ならやっていけますよね。
たとえばオタク男子同士の会話を聞いてると、おのおのが1つの作品についてひたすら知識を語っている。「俺はこんなに詳しいぞ!」「いや俺もこんなに詳しいぞ!」と壁に向かって全力でボールを投げていて、キャッチボールになってない。でもお互いまったく気にしてない、みたいな。
女は「私はこう思った」「わかる、私もそう思った」とか感情について話しますよね。理解と共感がベースだから。
二村:それがない男は、恋愛以前に、そもそも女性とコミュニケーションができないよね。
■女オタクと男オタクの違い